覗きが趣味の青年のもとに届いた、ある男の訃報。捨てた故郷、初体験の相手だったその男の全身には刺青があった……。「海の男」シリーズ三部作の第2弾。 【あらすじ】 東京の居酒屋で店長をしている健一の趣味は覗きだった。年下でリーマンの恋人もいるが、ある日、たまたまある男の訃報を耳にして、激しく動揺する。15年前に捨てた故郷の港町、初めての相手だったその男の屈強な肉体は鮮やかな刺青で覆われていた……。 体育大学の男子寮や居酒屋のトイレなど、覗きの日常の合間、折に触れ回想に耽る中で、最後に、ある驚きの事実が明らかになる。 ～本文から抜粋～ 「権堂が他の男たちと少しばかり別の人種であることは、ひとたび服を脱げばすぐわかる。百八十センチを超えるごつい肉体に、全身のおおよそ七割を覆う鮮やかな刺青があるのだ。 前は縦の中心を空白に残して、乳首のある両側を太腿の途中まで、腕は肘まで、後ろは背中全体から尻と太腿の半ばまで。いわゆる「胸割り」と呼ばれている刺青の型だというのは後になって知った。背中には、身を躍らせた艶やかな緋鯉が泳いでいた。 その頃の権堂は三十代半ばで、母親より二歳年下だった。 もっとも、たとえ刺青がなかったとしても、当時の権堂の外見はじゅうぶん雄々しい野性味に溢れたものだったと思う。 体重も相応にあったはずだ。それなのに、太っているという雰囲気はこれっぽっちもなく、むしろ精悍な印象すら与えた。大胸筋は下手な女より前にせり出し、腹も決してへっこんではいないのに、表面に硬い腹筋が浮き出ているのだ。下半身はがっちりと太く、とりわけ両肩から背中にかけての筋肉の厚みは見事という他なかった。 『筋肉というのはな、脂肪よりも重いんだ』 それが権堂の口癖だった。 短髪ですっきりした顔立ちは、口髭が、歳を実際より少し上に見せていた。鋭い目で相手を一瞬にして威圧したが、それはもしかしてある種の虚勢だったのかもしれない。というのは、今にして思えば、の話だが……。 そんな風貌と肉体に、色鮮やかな刺青は眩しいほどに似合っていた。」 ＊＊＊ ■初出『G-men 235号(2015年10月号)』。掲載作『覗き・刺青の男』を加筆修正。 ■掲載時になかった官能シーン（刺青の男の激しい自慰行為！）を新たに書き下ろし。 ■「海の男」シリーズ三部作。『父と息子の裸祭』に続く第2弾。 ■総文字数20000字超。